”同時ドーピング法”とは: 半導体、特にワイドバンドギャップ半導体(例:GaN, ZnSe, ZnO など) において低抵抗な p 型、あるいは n 型を創製、物質設計するための われわれ(山本哲也;高知工科大学 電子・光システム工学科、吉田博; 大阪大学産業科学研究所教授)が新規考案したドーピング法を ”同時ドーピング法”とよぶ。 (1)同時ドーピング法の考案の背景(history 参照): ・高分子化合物の表面における親油性、親水性制御を置換基 SO3X(X=H, Alkali metals) を利用して行った実験からの成果。特に S の分極されやすさを X で 制御し、吸着性、分散力、極性力を設計することがポイント。 この分野では初めて理論的に表面制御に関する理論を構築し、接触角といった 簡易な実験で親油性、親水性の予測をたてるツールを開発し、置換付着仕事理論 と自称した。 ・三元系窒化物 (Sm-Fe-N) 硬磁石開発における窒化の有効なプロセスの理論的理解。 上記2つの実験成功例を基に、効果を期待するドーパンドをドーピングするときは その役目をサポートする脇役元素を同時添加、同時ドーピングすることが必要不可欠 であることが全くの異分野における当方の経験から抽出された。 その後、カルコパイライト化合物への適用を提案、吉田教授の旺盛な協力の下、発展した。 (2) 化合物と元素ワイドバンドギャップ半導体における価電子制御の問題点: イ)化合物ワイドバンドギャップ半導体:両極性化が困難なのは真性欠陥 (空孔、または格子間原子)によるドナーあるいはアクセプターの自己 補償効果、あるいは ZnSe 中の Li 不純物では置換型と格子間侵入型と が同時に発生するための補償効果が主な原因と考えられてきた。 ロ)元素ワイドバンドギャップ半導体:ダイヤモンドではその誘電率がシリ コン(e。=11.4)に比べて小さく(e。=5.93)、ドーパントの不純物の 電子状態は本質的に局在する。この場合、3配位がエネルギー的に有利 となるn型ドーパンドである窒素をドーピングした場合、4本の共有結 合の手の1本が切れ、その結果、孤立電子対が生じるため、窒素の電子 状態は局在化し、更に深い不純物準位を形成する。そのためドナー準位 は伝導帯の下、1.56 eV にもなる。従って、室温でのキャリアの活性化 は不可能で、低抵抗のn型制御は困難になる。また他のn型ドーパント 候補である燐はその溶解度が小さく、その上、その大きなサイズのため 無理なドーピングは結晶性の悪化をもたらす。 上記 イ)と ロ)とを総括するとワイドバンドギャップ半導体での両極性化すなわ ち伝導型制御の困難さはドーピングによって化学結合力が弱くなり、格子エネルギ ーの増大がもたらされること、及びドーパンド間のクーロン反発力が大きいことか ら生ずる、格子中での不安定性が原因と考えられる。 実際、n型化が容易な半導体はn型ドーパント、ドナーがその格子エネルギーを 減少させること、また同様にp型化が容易な半導体ではそのp型ドーパント、アク セプターがその格子エネルギーを減少させるというわれわれの計算結果がある。 (3)同時ドーピング法が価電子に与える効果: "同時ドーピング法"が完全に行われた時、期待される効果を列記すると次の通り である。 (a)溶解度増大効果: ドナー、アクセプター間のクーロン引力がアクセプターまたはドナー同士の クーロン反発力を打ち消し、アクセプターまたはドナーの溶解度を増大、格子 中での電荷分布安定性を増す、 (b) キャリア活性率増大効果: n(p)型を創製する場合、2(1):1(2)に量論比でドーピングされた ドナー、アクセプターはその強い相互作用によって第1近接あるいは第2近接 配位したn(p)−p(n)−n(p)複合体を形成し、その結果、単独ドーピングされ たときに形成する不純物準位よりもより浅い不純物準位を形成する。 この場合、活性化率が大きく1桁以上増大し、伝導キャリア濃度は単独のドーピ ングのときよりも1桁以上増大する。 尚、補償に使用されたドナー、あるいはアクセプターによる見かけ上の補償を 結果として大きく上回ることが注目点である、 (c)易動度増大効果: "同時ドーピング法"によって形成されたn(p)−p(n)−n(p)(()内はp型 化の場合)複合体による散乱機構は、単独ドーピングでの長距離相互作用(1/r) ではなく、双極子(1/r3)の複合による短距離相互作用となるため、キャリアが 増大しても単独ドーピングのときとは反対にその易動度は減少しない。 以上、上記3つの効果が高い伝導度を示すn型、あるいはp型ワイドバンドギャップ 半導体創製のための価電子制御を可能とする物質設計の指針である。