電気と電子と光に関わる単位

2015-04-01

電気と電子と光に関わる単位の次元

SI単位系での電気/電子/光に関わる単位の次元に付いて簡単に説明する. SI基本単位には電流をあらわすアンペア(\(\mathrm{A}\))と光の強さである光度をあらわす カンデラ(\(\mathrm{cd}\))が含まれている.この二つの単位と仕事率をあらわすワット(\(\mathrm{W}\))により, 力学的な単位と電子/電気と光に関わる単位が結びつけられている. ここでは,単位間の関係を単位の次元の掛け算と割り算のみであらわすが,SI単位系はそこに1以外の係数が生じないように構成されているので, 単位の次元の掛け算と割り算の結果がそのまま別の単位となる.

光度をあらわすカンデラは単色光(540\(\mathrm{THz}\))の放射強度により定義される. 放射強度は\(\mathrm{W/Sr}\)が単位であり,これにより仕事率(\(\mathrm{W}\))と光度(\(\mathrm{cd}\))が結びつけられる. なお,540\(\mathrm{THz}\)以外の周波数の光については人間の視覚感度にもとづいた分光感度効率曲線により補正して求めることになっている. カンデラ以外の光に関わる単位もカンデラから求められる.

力学系で仕事率をあらわす単位ワット \(\mathrm{W=J/s=m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3}} \) は電子/電気系では電力をあらわす単位であり, 電圧×電流である.ここで,電流の単位アンペア(\(\mathrm{A}\))が基本単位に含まれるので,電圧(\(\mathrm{V}\))の次元が長さ(\(\mathrm{m}\))と質量(\(\mathrm{kg}\))と時間(\(\mathrm{s}\))と電流(\(\mathrm{A}\))によって \(\mathrm{V=W \cdot A = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-1}} \) のように表現できることになる.

仕事率と電力の関係は次のように考えることが出来る. 電線の両端に電圧をかけると電流が流れ,熱エネルギーが発生する.そのエネルギーはジュール(\(\mathrm{J}\))であらわすことが出来る. さらに,1秒あたりの発熱エネルギーを求めるとそれは仕事率(\(\mathrm{J/s}\))になる. この値は,電圧と電流の積に等しい.そこで,電圧と電流の積を「電力」と呼ぶことにすると,「電力」は単位時間あたりの(熱)エネルギーに 等しくなる.つまり,電力と仕事率は同じものであり,同じ単位ワット(\(\mathrm{W}\))を使って表現できる.

電力と電圧をSI基本単位であらわすことが出来ると,それらにもとづいて,電気抵抗,電荷,磁束が表現できるようになる. 電荷と磁束が表現できれば,電流,電圧からキャパシタンス,インダクタンスも表現できる.

仕事率と電力はおなじ単位であらわすことが出来る.

\[ \mathrm{W = J/S = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3}} \]

電力は電圧と電流の積である.したがって,電圧=電力÷電流となる.

\[ \mathrm{V = W /A = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-1}} \]

電圧は電気抵抗と電流の積である.したがって,電気抵抗=電圧÷電流となる.

\[ \mathrm{\Omega = V/A = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2}} \]

電流は単位時間あたりに移動する電荷であるので,電流=電荷÷時間となる.したがって,電荷=時間×電流である.

\[ \mathrm{C = s \cdot A} \]

静電容量(キャパシタンス)はある物体に電圧を加えたときに蓄えることの出来る電荷をあらわすので静電容量×電圧=電荷である. したがって,静電容量=電荷÷電圧となる.

\[ \mathrm{F = C/V = m^{-2} \cdot kg^{-1} \cdot s^{4} \cdot A^{2}} \]

ファラデーの電磁誘導の法則より,単位時間あたりの磁束の変化により起電力が生じるので,磁束÷時間=電圧である. したがって,磁束=電圧×時間となる.また,磁束密度は磁束を面積で割ったものである.

\[ \mathrm{Wb = V \cdot s = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-2} \cdot A ^{-1}} \] \[ \mathrm{T = Wb / m^{2} = kg \cdot s^{-2} \cdot A^{-1}} \]

インダクタンスはある物体に流れる電流の変化により生じる磁束の変化をあらわすので,インダクタンス×電流=磁束である. したがって,インダクタンス=磁束÷電流でとなる.

\[ \mathrm{H = Wb/A = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-2} \cdot A^{-2}} \]

以上によりSI組み立て単位で固有の名称と記号で表されるものうちで,電気/電子に関わるものをすべてSI基本単位により表現できた.

単位の次元と物理量を表す式

ここでは,電気/電子回路で使われるいろいろな式や量について,式や量の表す物理量と単位の次元の関係を考える.

インピーダンス

インダクタ,キャパシタのインピーダンスはそれぞれ \(j \omega L\)、\(1/{j \omega C}\) であらわされるが, これらの値が抵抗の次元であることを確かめる. \(\omega\)の次元は\(\mathrm{s^{-1}}\)であるので,

\[ j \omega L \rightarrow \mathrm{s^{-1} \times m^{2} \cdot kg \cdot s^{-2} \cdot A^{-2} = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2} } \] \[ (j \omega C)^{-1} \rightarrow \mathrm{(s^{-1} \times m^{-2} \cdot kg^{-1} \cdot s^{4} \cdot A^{2})^{-1} = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2} } \]

となり,抵抗の次元である \(\mathrm{m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2}}\)を持つことが確かめられた. 講義などでは天下りに「\(j \omega L\)、\(1/{j \omega C}\) をインダクタ,キャパシタのインピーダンスと呼ぶ.」 というような説明をされることもあるが、これらは値は抵抗の次元をもつ虚数であるので、この表現は正しいことがわかる.

時定数

つぎに時定数と呼ばれる\(RC\)、\(L/R\)、\(\sqrt {LC}\) がどのような次元を持つかを考える。 まず,\(RC\)の次元は,

\[ RC \rightarrow \mathrm{m^{2} \cdot Kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2}\times m^{-2} \cdot kg^{-1} \cdot s^{4} \cdot A^{2} = s } \]

より,時間の次元を持つことがわかる.同様に,

\[ \frac{L}{R} \rightarrow \mathrm{\frac{m^{2} \cdot kg \cdot s^{-2} \cdot A^{-2}} {m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-2}} = s} \] \[ \sqrt{LC} \rightarrow \mathrm{\sqrt{m^{2} \cdot kg \cdot s^{-2} \cdot A^{-2} \times m^{-2} \cdot kg \cdot s^{4} \cdot A^{2}} = \sqrt{s^{2}} = s} \]

となり、いずれも時間の次元を持つことがわかる。 以上のように時定数の次元はすべて時間となるので \(\omega = 1/RC\)のような置き換えを行うことが出来る。

PN接合ダイオードの順方向電流

PN接合ダイオードの電圧・電流特性は,\(I_{s}\)を飽和電流とすると

\[ I = I_{s} \{\exp (\frac{V}{V_{t}})-1\} \]

であらわされる.ここで,

\[ V_{t} = \frac{k \cdot T}{q} \]

ただし,\(k\) はボルツマン定数,\(T\) は絶対温度,\(q\) はキャリアの電荷である.

\(V_{t}\) がどのような次元を持つか考えてみる.

ボルツマン定数 \(k\) の次元は \(\mathrm{J \cdot K^{-1}}\)であるので,

\[ \frac{k \cdot T}{q} \rightarrow \mathrm{\frac{J \cdot K^{-1} \times K}{C} = \frac{m^{2} \cdot kg \cdot {s}^{-2} \cdot {K}^{-1} \cdot {K}}{s \cdot A} = m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-1}} \]

となり,\(V_{t}\) は電圧の次元 \(\mathrm{m^{2} \cdot kg \cdot s^{-3} \cdot A^{-1}}\)を持つことがわかる。 したがって,\(V/V_{t}\) は無次元である.

無次元の値に対する指数関数の値はやはり無次元であると考えてよいので,もとの式の右辺の次元は \(I_{s}\)が 電流をあらわすので電流である.また,左辺はダイオードに流れる電流をあらわすので, 式は右辺,左辺ともに電流をあらわす式になっていることがわかる.